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最高裁判所大法廷 昭和25年(オ)113号 判決 1951年8月01日

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人等の負担とする。

理由

本件上告の理由は末尾に添付する別紙記載のとおりである。

上告代理人小林寛、同武田蔵之助の上告理由第一点について。

論旨は、原判決は自作農創設特別措置法(以下自作農法と略称する)六条の解釈を誤つた違法があるとし、(イ)において同条五項の農地買収計画の公告には少くとも買収すべき農地並びに買収の時期及び対価を記載しなければならないと主張するのであるが、同項は「農地買収計画を定めたときは、遅滯なくその旨を公告し」と規定しているのであるから、公告には単に買収計画を定めた旨を公告すれば足り、買収すべき農地、買収の時期及び対価をも記載して公告しなければならない趣旨とは解することができない。同条二項は買収計画には買収すべき農地、買収時期、買収対価を定めるべきことを規定しているのであつて、若し所論のように公告にも右の事項を記載しなければならないものとすれば、法律は計画そのものを公告すべきものと規定すべきであつて、五項に定める縦覽の規定は必要のないものと言わねばならない。

論旨は更に(ロ)において、若し原判決のように解するならば、公告に関する規定の存在理由がないと主張するのであるが、公告は買収計画の定められたことを農地所有者その他の関係者に知らしめ、これらの者に縦覽を促す意味を持つものであつて、右の事項の記載がないからと言つて、公告が無意味になるものではない。

論旨は又(ハ)において、本件買収計画は第一二回目の買収計画であるがその旨の記載もなくその公告内容はそれ以前の公告と全く同じであつて、如何なる買収計画についても通用する公告は、本件買収計画の公告としては不法であるというのである。しかしながら、本件公告に第一二回公告と明記されていなくても、本件公告がそれ以前の買収計画の公告と異ることは、告示番号、告示年月日、縦覽期間等の記載によつて明白であり、関係者は本件公告を見てそれ以前の計画と別個の計画の定められたことを知り、縦覽の機会を得るのであつて、本件公告に第一二回目と記載してないからと言つて不法とすべき理由はない。

同上告理由第二点について。

論旨は、公告には買収計画を定めた旨を公示すべきこと当然であるにかかわらず、原判決は「前記公告文の記載によれば農地の買収計画が定められたことを窺知し得るが故に右公告は適法」と判断している。若し原審が「買収計画が定められたことを窺知し得る」記載があれば足りると解しているのであれば、原審は法律の解釈を誤つているというのである。

しかし、本件公告文には「買収並に売渡計画書の縦覽期間を左記の通り定め縦覽に供す」とあり、所論のように、文字の上では、買収計画を定めた旨の記載はないけれどもその趣旨は買収、売渡の計画を定めたから縦覽期間を定め縦覽に供する趣旨であることはいうまでもない。即ち右公告中には「買収計画を定めた旨」を含んで居るのであるから、これを是認したのは固より正当で論旨は理由がない。

同上告理由第三点について。

論旨は、原審が、本件公告文を農地委員会の事務所の掲示場に掲示したことを以て違法であるとしたのは、法令の解釈を誤つているというのであるが、自作農法施行令三七条には「(前略)公告は(中略)市町村農地委員会のする場合にあつては市町村の事務所の掲示場に掲示して、これをしなければならない。」とし同令四〇条では「この勅令中市町村農地委員会に関する規定は、地区農地委員会の設けられている市町村の地区にあつては、地区農地委員会に適用する。」と規定し、更に「第三七条中『市町村の事務所』とあるのは『地区農地委員会の事務所』と読み替えるものとする。」と規定している。本件の場合には園田地区農地委員会が設けられているのであるから、同委員会が本件公告を同委員会事務所の掲示場に掲示したことは正当であつて、この点に関する原判決の判示に違法の点はなく論旨は理由がない。

同上告理由第四点について。

論旨は、原判決は行政事件訴訟特例法(以下特例法と略称する)を適用するにあたり、法律の解釈を誤つた違法があるというのであつて、要するに、上告人は本訴提起の前提として法定の異議申立期間内に異議の申立をしなかつたけれども、申立をしなかつたのは本件買収計画の公告が具体的でなく、又計画が定められた旨の通知もなかつたためであるから、特例法二条但書の「正当な事由があるとき」に該当し、異議、訴願を経ていなくても、本訴の提起は適用であつて、原判決が本訴を却下すべきものと判断したのは違法であると主張するのである。

自作農法七条は買収計画に対する不服申立方法として異議、訴願の二段階を規定している。この規定と特例法二条を合せ考えるときは、農地買収計画の取消又は変更を求める訴を裁判所に提起するためには、その前提として、当該市町村農地委員会(本件の場合、被上告人園田地区農地委員会)に異議を申し立て、その決定に不服の者は更に都道府県農地委員会に訴願し、その裁決によつてもなお救済の得られない場合に、はじめて裁判所に訴訟を提起することができる趣旨と解しなければならない。そして所論のような事情は訴願法八条の「宥恕すべき事由」というようなことにはなり得るかも知れないけれども本件のように異議を却下された場合に訴願を経ないで裁判所に訴訟を提起する正当な事由ということはできない、従つて論旨(イ)は理由がない。論旨(ロ)(ハ)についても同様である。

同上告理由第五点について。

論旨は被上告人農地委員会の指定代理人田辺明男は同委員会の職員ではなく、従つて代理権を有しないと主張するのであるが、同人が同委員会の職員であることは記録に編綴してある同委員会の証明書によつて明らかである。それ故同人は同委員会を適法に代理し得るものというべく論旨は理由がない。

同上告理由第六点について。

論旨は特例法二条は憲法三二条に違反して無効であるというのである。しかし憲法七六条二項は行政機関もまた裁判を行うことのあることを前提としており、而して行政機関が行う裁判と司法裁判所の行う裁判との相互関係については、裁判所が終審として裁判を行うことを要するものとしたほか、行政機関の行う裁判を裁判所に対する訴訟提起の前提要件とするか否かは法律の定めるところに一任しているものと解すべきであつて、特例法二条がいわゆる訴願前置主義を定めたからと言つて憲法三二条に違反するものということはできない。論旨は理由がない。

よつて民訴四〇一条、九五条、八九条に従つて主文のとおり判決する。

この判決は裁判官全員の一致した意見である。

(裁判長裁判官 田中耕太郎 裁判官 長谷川太一郎 裁判官 沢田竹治郎 裁判官 霜山精一 裁判官 井上登 裁判官 栗山茂 裁判官 真野毅 裁判官 小谷勝重 裁判官 島 保 裁判官 斉藤悠輔 裁判官 藤田八郎 裁判官 岩松三郎 裁判官 河村又介 裁判官 谷村唯一郎)

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